こんにちは!東京・三軒茶屋の税理士の岩沢です。
社長一人の会社である場合、意識的には「会社のお金=俺のカネ」である会社も少なくないと思います。
しかし、法律上は会社と社長はまったくの別人格。
いくら一人会社の社長でも、会社のお金を私的に使ってはいけません。
今回は、会社から社長にお金を移す手段の一つである『役員報酬』について、
金額の決め方と、税金・社会保険料について解説します。
※中小企業(非上場会社)を前提に話を進めます。
目次-Contents-
役員報酬には様々なしばりがある
会社から社長にお金を移す方法は役員報酬や賞与、配当、退職金などがありますが、
役員報酬が最も一般的で、かつ頻度の多い支給方法です。
役員報酬の支払いという手続きを経て、会社のお金が正式に社長のお金となるのです。
ですがこの役員報酬、決め方に様々なしばりがあるのです。
定期同額給与
役員報酬の支給は、『一定期間ごとに同じ金額』である必要があります。
「先月は30万円だったけど、今月は売上が多かったから役員報酬50万円にしちゃおう!」
とすることは出来ません。
一旦役員報酬の金額を決めたら、その期間中は変更することが出来ません(※)
※後述するように、期が始まってから3か月以内であれば変更可能です。
この『一定期間は』は1か月以内が条件なので、
毎日でも毎週でも毎月でも大丈夫です。
ただし毎日→毎月→毎週などと、自己都合でしょっちゅう変えるのはNGです。
役員報酬の支給額は、会社にとって経費になります。
社長が役員報酬の金額を毎回自由に変動させることが出来ると、
会社の利益調整が可能となり法人税額等を有利にコントロールできてしまうため、
このような窮屈な制限が設けられているのです。
役員報酬の金額はいつ変更できるの?
定時改定
会計期間が始まってから3か月以内に変更する必要があります。
ただし以下のような特別な事情がある場合は、
3か月経過後であっても役員報酬の金額を変更することが可能です。
臨時改定事由
「役員の職制上の地位の変更」や「職務の内容の重大な変更」、その他これらと同じようなやむを得ない事情がある場合は、
3か月経過後であっても役員報酬の金額を変更することが出来ます。
3か月経過日前には予想できなかった事情があって、それが利益調整などを目的としていないならばOKという趣旨です。
たとえば社長が途中で退任し、副社長が社長に就任するケース。
副社長は社長になったことで責任や業務範囲が変わるので、これに伴う役員報酬の変更は認められます。
また合併によりその役員の職務内容が大幅に変わった場合も、役員報酬の変更が認められます。
さらに役員の不祥事によって報酬減額した場合も、その処分が社会通念上妥当であれば、特に問題となりません。
業績悪化改定事由
会社の経営状況が『著しく』悪化したことに伴うやむを得ない役員報酬の減額は、3か月経過後でも認められます。
なお会社の一時的な資金繰りの都合や、単に業績目標に達しなかった場合はこれに含まれません。
あくまでも『著しく』経営状況が悪化したことが条件ですが、具体的な数値は明記されていません。
過去の事例を見てみましょう。
⇒国税庁 役員給与に関するQ&A 平成20年12月(平成24年4月改訂)
上半期の業績が予想以上悪化したため、株主との関係上、役員報酬を減額した。
⇒第三者である利害関係者(株主・債権者・取引先等)との関係上、やむを得ない事情による減額と認められる。
ただし、いくら債権者等の求めであっても「経営状況の著しい悪化」がなければ、やむを得ないとは認められない。
(東京地判平26.5.30 Z264-12482、東京高判平26.10.15 Z264-12542)
売上の大半を占める得意先の経営状況が悪化。当社の売上激減はまだ数か月先だが、ほぼ確実。
役員報酬の減額を含め経営改善策が不可欠であるため、期の途中だが役員報酬を減額した。
⇒現状はまだ著しい業績の悪化に該当しないものの、客観的状況から今後著しく悪化することが不可避。
やむを得ない事情による減額と認められる。
これらの改善策をしたことによって結果的に「著しい悪化」の状態を避けられたとしても、
役員報酬を減額した判断は問題とならない。
主力製品に不具合があることが判明して、今後多額の損害賠償金やリコール費用が見込まれるため役員報酬を減額したい。
⇒いくら今後の著しい悪化が見込まれるとしても、客観的な状況がない単なる将来の見込みでは、役員報酬の減額は認められない。
役員報酬の金額、3か月たったら絶対に変更できないの?
役員報酬の金額は、物理的にはいくらでも自由に変更可能です。
ただ、定期同額でない役員報酬は会社の損金(≒経費)にすることが出来ないのです。
損金にならないと会社の税金は減りません。
一方、受け取った役員はしっかりと役員報酬に税金がかかります。
つまりダブル課税となり、大損です。
無駄な税金を払わないためにも、必ず要件を守りましょう。
期の途中で変更した場合、経費にならない範囲は?
期の途中で役員報酬を変更した場合、全額が経費にならず税金的に大損してしまうわけではありません。
増額した場合
会計期間開始後、3か月経過後に役員報酬を増額した場合は、
増額した部分だけが損金不算入(経費にできない)となります。
減額した場合
定時株主総会で減額改定をしておらず、
かつ業績悪化事由に該当しない減額(単なる資金繰り不安や赤字回避策)をした場合、
定時株主総会で減額改定したものとみなし、①と②の差額が損金不算入となります。
①定時株主総会のときから臨時改訂までの月額報酬
②臨時改訂後の月額報酬
【例】
- 3月決算法人
- 5月の定時株主総会では減額改定なし
- 11月の臨時株主総会で12月からの減額を決定
- 役員報酬を月額50万円から40万円へ10万円減額
- これは臨時改訂事由や業績悪化改訂事由に該当しない
この場合、5月の定時株主総会で同額改訂が行われたものとして、
事業年度開始日から定時株主総会までに支給した定期給与(4・5月分給与)と、
定時株主総会後に支給した定期給与(6月~翌3月の給与)を分けて考えます。
そのうえで、減額改定後の定期給与(40万円)を継続して支給するとともに、
減額改定前の期間(6月~11月までの6か月分;月額50万円)は
「定期給与である40万円に10万円を上乗せして支給していた」と判断されます。
したがって、
この6か月間に定期同額給与を超えて支給された60万円(10万円×6か月)が損金不算入となります。
役員報酬にかかる税金・社会保険料
所得税と住民税、そして社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料)がかかります。
所得税
『超過累進税率』の『総合課税』によって税金がかかります。
難しい言葉が並んでいますが、
要は「副業などをやっていたらそれらの収入をあわせて(=総合課税)」、
「稼げば稼ぐほど税率が上がっていく(=超過累進税率)」しくみです。
役員報酬の額面から『給与所得控除』と『所得控除』を引いて『課税所得』を求め、
それに税率(5%~45%)をかけて所得税額を算出します。
住宅ローン控除などの『税額控除』があれば、所得税額から差し引きます。
▶給与所得控除:役員・従業員には経費の計上が認められていない。代わりに給料額面ごとに決められた『給与所得控除』を差し引くことが出来る。「会社員の方はこのぐらい経費かかりましたよね?」という、国が認めてくれた「みなしの経費」のようなものです。
▶所得控除:その人の生活状況に応じて、一定の税負担軽減の配慮がなされています。たとえば配偶者控除。専業主婦などの配偶者がいる場合、13~48万円(本人の所得や配偶者の年齢により変動)を税金計算から除外することができます。また医療費が年間10万円を超える場合、その超えた金額を税金計算から除外できます(医療費控除)。
他にもいくつかあるので、自分に該当する控除がないか確認しておきましょう。
住民税
所得税率は5%~45%とかなり差がありましたが、住民税率は全員同じ10%です。
所得税のように『課税所得』を求め、上記の税率を乗じます。
課税所得は所得税のときと若干差がありますが、それほど大きくはありません。
社会保険料
住んでいる都道府県によって若干差はありますが、
健康保険料と厚生年金保険料とを合わせてだいたい『役員報酬額面+交通費』の30%の負担です。
これを会社と半額ずつ負担します。
額面が30万円で交通費が3万円だったら毎月99,000円の保険料を会社と半額ずつ払います。けっこう重い負担ですよね。
※正確には、『標準報酬月額』と年齢によって保険料が決まります。40歳以上の人は介護保険も上乗せで支払う必要があります。
まとめ
今回は、役員報酬の決め方と、税金・社会保険料について解説しました。
いくらに設定するか、いつ変更するかなどについて様々な制約がある役員報酬。
決まりを守らないと法人と個人とで二重に税金がかかってしまうなどの弊害があるので、
しっかり要件を確認しておきましょう。
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- 現在の税理士が高齢でこの先が不安
税理士とのコミュニケーション不足は、記帳内容がぐちゃぐちゃになり、
誤った経理処理となる要因となります。
その結果、3~5年周期の税務調査において指摘の対象となり、
最大40%の追徴課税(追加で税金が取られてしまうこと)のリスクが高まります。
無駄な税金を払わないためには、常日頃、経理処理や経営環境などについて税理士と共有し、
追徴課税リスクへの対応策を早期に講じることが大切です。
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