正社員を外注社員にするときの注意点【事例から考える】

こんにちは!東京・三軒茶屋の税理士の岩沢です。

最近、正社員として雇っている従業員を『外注社員』にする動きが広がっています。

その狙いの理由の一つに、会社の税金が安くなることが挙げられます。

なぜ、社員を外注社員にすることで会社の税金が下がるのでしょうか?

また、節税効果が高いからこそ、注意すべき点は多くなります。

今回は、社員の外注化が節税になる理由と注意点を、過去の事例を参照しながら解説します。

目次-Contents-

従業員を雇うと『負担』がいっぱい

事業が軌道に乗り、社長一人だけでは業務に手が回らなくなったときは

誰かを従業員として雇うことを検討し始めるのではないでしょうか。

業務を手伝ってもらえるのはすごく助かるけど、いろいろな負担が生じるのも事実。

一日〇時間以上働かせてはならないなどの労働基準法の縛りや、

従業員の標準報酬(≒給料額面+交通費)の約30%の社会保険料のうち半額の会社負担

さらには採用した人が思ったほど仕事が出来なくても容易に辞めさせられない解雇規制など、

思うようにいかないもどかしさを感じるかもしれません。

誰かを雇って手伝ってもらうためには、このぐらいの負担は覚悟すべきなのでしょうか?

実は(というか周知かもしれませんが)、解雇規制や残業規制もなく、

社会保険料負担もない外注(業務委託)社員という選択肢もあるのです。

外注社員化のメリット

「雇用」という形をとらず、手伝ってもらいたい時だけ作業をお願いする外注社員。

就業時間の決まりがなく、提出してもらった成果物への対価のみ支払えばOK。

昨今の感染症の影響などで多様な働き方が進む中、働く側にとってもメリットを感じる人もいるでしょう。

会社側にとってのメリットは大きく以下が挙げられます。

正社員の外注化のメリット

①社会保険料の負担がなくなる

②消費税の節税になる

③労働基準法などの縛り・リスクからの解放

 

①社会保険料の負担がなくなる

会社は従業員の標準報酬(≒給料額面+交通費)の約30%の社会保険料のうち、

その半額を会社分として負担しなければなりません。

従業員を年収500万円(額面)で雇った場合、約75万円(500万円×30%÷2)を余計に負担する必要があるのです。

これは会社にとって非常に重い負担ですよね。税金よりも負担は大きいです。

一方、外注社員に500万円の報酬を払っても、会社はその人の社会保険料は1円たりとも負担しません。

外注社員本人が国民健康保険・国民年金に加入し、自分で保険料を納付します。

 

②消費税の節税になる

会社は売上のときに「預かった消費税」から、経費の支出のときに「払った消費税」を差し引き、

最終的に国や地方に納付する消費税額を計算します。

従業員への給料は消費税上「課税対象外」に区分され、「払った消費税」に含まれません。

つまり、会社が払う消費税はいくら給料を払っても少なくなりません。

一方、外注社員に対する報酬は「課税仕入」に区分され、「払った消費税」に含まれます。

外注社員に対する報酬500万円を税込み価格とすれば(もちろんこれは外注社員との同意が必要)、

その分の消費税額(約45万円)を「国や地方に納付する消費税額」から控除することが出来ます。

 

③労働基準法などの縛り・リスクからの解放

会社の従業員の雇用に対するリスクは、思った以上に大きいです。

非常に有能な従業員ならすごく助かるけど、採用してみたらまったく期待外れだった、

途中からやる気を失ってモンスター社員になった、なんてことも珍しくありません。

それどころか、残業代や有休未消化などでトラブルがあれば、大半のケースは会社に不利に働きます。

外注社員ならこうしたリスクをほぼ回避することが出来ます。

外注社員化のリスク

このようにメリットの大きい正社員の外注化ですが、それ相応のリスクがあります。

それは、税務調査で「この人は外注社員じゃなく、実質的に従業員ですよ」と判断されること。

では、外注社員として各種経理処理をしてきたものの、税務調査で従業員判定されてしまうとどうなるのでしょうか?

 

消費税の追加納付

上述の通り、会社は外注社員に払った報酬に含まれる消費税額を、納めるべき消費税額から引いています。

従業員に対する給与には消費税がかからないので、

外注社員ではなく、従業員であると判断されてしまった場合は、

少なくなっていた消費税の納税額(外注分の消費税)を過去にさかのぼって納付しなければなりません。

これには本来納付すべきだった金額に加え、『過少申告加算税』や『延滞税』も上乗せされます。

過少申告加算税

本来納付すべきであった税金が少ない場合に課せられる罰金的な意味合いの税金です。

本来の納税額と実際の納税額との差額の10%が、過少申告加算税として課せられます。

ただし、新たに納める税金が当初の申告納税額と50万円とのいずれか多い金額を超えている場合、

その超えている部分については15%になります。

※税務調査の事前通知の後でも、調査を受ける前に自主的に修正申告をすれば、

50万円までは5%、50万円を超える部分は10%に軽減されます。

延滞税

税金を期限内に払わないと、利息的な意味合いの『延滞税』がかかります。

納付期限が2か月までは税率は高くありませんが、それを超えると倍以上の利率になります。

▶納付期限から2か月以内 年利7.3% or 「特例基準割合(注1)+1%」の低い方。

具体的には以下のとおりです。

  • 令和3年1月1日から令和3年12月31日まで:年2.5%
  • 平成31年1月1日から令和2年12月31日まで:年2.6%
  • 平成30年1月1日から平成30年12月31日まで:年2.6%
  • 平成29年1月1日から平成29年12月31日まで:年2.7%

▶納付期限から2か月超 年14.6%と「特例基準割合(注1)+7.3%」の低い方。

具体的には以下のとおりです。

  • 令和3年1月1日から令和3年12月31日まで:年8.8%
  • 平成31年1月1日から令和2年12月31日まで:年8.9%
  • 平成30年1月1日から平成30年12月31日まで:年8.9%
  • 平成29年1月1日から平成29年12月31日まで:年9.0%

カードローンほどとは行かなくても、けっこう高利でビックリですよね。

なお、ウソや不正行為で脱税をした場合などを除いて、修正申告書等を提出していれば、延滞税は最長1年分で済みます。

 

源泉所得税の追加納付のリスク

通常、会社は社員への給料の支払いのときに所得税を天引きし(源泉徴収)、

翌月10日までに税務署に納付しなければなりません。

これは外注社員に対する報酬の支払いのときも同様です。

ただし、従業員と外注社員とでは源泉所得税の計算方法が異なります。

従業員の源泉税は国税庁の源泉徴収税額表に従って算出しますが、

外注社員の源泉税は基本的に一律10.21%で計算します。

税務調査で外注社員としての認識が否定されて従業員とみなされた場合、

その当時「従業員として源泉徴収すべきであった金額」が「実際に外注社員として源泉徴収した金額」より大きい場合、

その差額分を税務署に支払う必要があることになります。

その差額分の源泉所得税は納付が遅れたことになるので、追加の税金負担が発生します。

基本的な追加の税金は以下の2つです。

不納付加算税

その差額分の源泉所得税を納付していないことに対する罰金的な税金です。

本来納付するべきだった税金額の10%がかかります。

ただし、税務署から指摘される前に自主的に納付した場合は、5%の負担で済みます。

なお、以下の場合はこの不納付加算税が免除されます。

不納付加算税が免除される要件

①納付の意思はきちんとある。わざと遅らせたわけではない。

②遅れたけど、期限から1か月以内に納付している。

③過去1年間、納付に遅れはない。

④不納付加算税が5,000円未満

 

延滞税

上記「消費税」の箇所をご参照ください。

従業員と判断されないための要件

外注社員は節税効果が大きく、労務リスクも抑えられるのでメリットが大きいのですが、

それが失敗して従業員とみなされてしまった場合の代償が大きいのも事実。

では、どのような条件を満たせば外注社員としていいのでしょうか?

正社員と結んでいる『雇用契約書』を外注社員としての『業務委託契約』に変更することは必須ですが、

業務委託契約さえ結んでおけば安心、というわけではありません。

そのように形式的に決めるわけではなく、様々な事情を総合的・実質的に考慮する必要があります。

これには明確な規定があるわけではなく、昭和56年の最高裁判決が判断基準として定着しています。

また、『消費税法基本通達1-1-1』も判断の参考になるとされています。

 

昭和56年最高裁判決

【給与】雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付

【外注費】自己の計算と危険において独立して営まれ,営利性,有償性を有し,かつ反覆継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる給付

給与支給者との関係において何らかの空間的,時間的な拘束を受け,継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり,その対価として支給されるものである場合は給与に該当する。

 

消費税法基本通達1-1-1

①非代替性(その契約に係る役務の提供の内容が他人の代替を容れるか)

②指揮監督性(役務の提供に当たり事業者の指揮監督を受けるか)

③危険負担(まだ引渡しを了しない完成品が不可抗力のため滅失した場合等においても,当該個人が権利として既に提供した役務に係る報酬の請求をなすことができるか)

④材料等の支給(役務の提供に係る材料又は用具等を供与されているか)

難しい用語がたくさんあるので、一緒に見ていきましょう。

①非代替性

例えば外注社員が風邪で休んだとき、他の人が代わりに出来る仕事であれば外注費、出来ない業務は給与。

②指揮監督性

会社から指揮監督を受ける業務は社員に業務の自由度がないので給与、指揮監督を受けないならば外注費。

③危険負担

成果物を納品しなくても報酬を請求できるのであれば給与(作業時間に応じて報酬が発生する)、

成果物を納品できなければ一切報酬を請求できないのであれば外注費。

④材料等の支給

業務で生じる経費を自己負担している場合は外注費、会社から支給されていれば給与。

 

これら①から④をすべて満たし、さらに昭和56年の最高裁判決の区分にも合致するよう、しっかりとした準備が必要です。

これまでの正社員時代の勤務時間や指揮命令系統などのまま契約書を業務委託契約に変えただけでは、

まず間違いなく従業員であると判断されてしまいます。

外注社員でなく、従業員であると判断された過去の事例

  • 会社の業種:塗装工事等
  • 時期:平成26年10月頃
  • 人数:作業員2名
  • 判決:令和2年(行ウ)第68号,令和3年2月26日判決
  • 内容:社会保険料が給与から減額されるのは困るので、外注先として取り扱ってほしいと作業員から申し出があったため、そのように変更した。

判決の内容は、簡単に言うと「会社の作業員2人は実質的にみて従業員だから、消費税と源泉税を過去にさかのぼって納付しなさい」でした。

消費税や源泉税のみならず、それに付随する不納付加算税や過少申告加算税、延滞税もかかるのですから、その負担は大きかったでしょう。

外注社員として認められなかった理由も公表されているので、ご紹介します。

従業員と判断されてしまった理由

▶作業員が仕事を休んだ際は自分で代わりを手配したのではなく、会社自身が代替作業員を手配していた。

▶作業員は作業日・内容・作業時間を自由に決めることがなかった。

▶会社の代表者等の指示に従って作業していた。

▶作業員に完成すべき作業についての定めがなかった。

▶作業が完了しなくても、作業日数に応じた報酬が支払われていた。

▶材料代は会社から支給されていたものを使っていた。

正社員を外注にするには、最低限これらの事項はクリアする必要があります。

「何時から何時まで働いてください」は論外ですが、指揮命令できないのは要件として少し厳しいですよね。

「こういうものを、いついつまでに納品してください。それまでの過程は任せます。」という実態が、

外注社員との契約の基本となります。

まとめ

今回は、社員の外注化が節税になる理由と注意点を解説しました。

節税効果が大きい反面、税務調査で指摘されたときのリスクが大きい正社員の外注化。

しっかりと対策をとり、無駄な税金を払うことのないようにしましょう。


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代表/岩沢将志税理士

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税理士業と並行して、パーソナルジムも運営。
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