こんにちは、東京・三軒茶屋の税理士の岩沢です。
個人事業主の時とは違い、売上としてお客さんからもらったお金はあくまで会社のもの。
社長といえど、口座から引き落として自由に使っていいわけではありません。
たとえ社長一人の会社であったとしても。
この記事では、会社から社長にお金を移す5つの代表的な方法について、注意しなければならない点とそれぞれの税金について解説します。
※中小企業(非上場会社)を前提に話を進めます。
目次-Contents-
会社から社長にお金を移す5つの方法
会社から社長にお金を移す方法は、大きく以下の5つの方法に分けられます。
①役員報酬
②賞与
③配当
④退職金
⑤役員貸付金
それぞれの内容と進め方、税金関係を以下にまとめます。
①役員報酬
毎月、同じ金額で。
役員報酬は『定期同額給与』といって、「毎月(日払いでも週払いでもOK)」「決められた金額(同額)」を支給しなければなりません。
株主総会の議事録を書く
役員報酬の金額は株主総会といって、株主のみなさんの話し合いによって決めます。
役員報酬は会社にとって経費になる(利益が少なくなって税金も減る)ので、
税務調査で「役員報酬を経費にしてるけど、証拠がないじゃないか!これじゃ経費として認められません!」と言われたら、経費が減って税金が増えてしまいます。
そうならないよう、証拠書類として『株主総会議事録』を作成します。
「令和3年7月から役員Aの役員報酬を月額30万円にします。」のように書きます。
通常は顧問税理士が作成してくれますが、顧問税理士を付けていない人はネットで議事録のフォーマットを落として準備しておきましょう。
役員報酬にかかる税金・社会保険料
所得税と住民税、そして社会保険料がかかります。
所得税
『超過累進税率』の『総合課税』によって税金がかかります。
難しい言葉が並んでいますが、要は「副業などをやっていたらそれらの収入をあわせて(=総合課税)」、「稼げば稼ぐほど税率が上がっていく(=超過累進税率)」しくみです。
所得税率は5%~45%です。
住民税
所得税率は5%~45%とかなり差がありましたが、住民税率は全員同じ10%です。
社会保険料
住んでいる都道府県によって若干差はありますが、健康保険料と厚生年金保険料とを合わせてだいたい『役員報酬額面+交通費』の30%です。
これを会社と半額ずつ負担します。
額面が30万円で交通費が3万円だったら毎月99,000円の保険料を会社と半額ずつ払います。けっこう重い負担ですよね。
※正確には、『標準報酬月額』と年齢によって保険料が決まります。40歳以上の人は介護保険も上乗せで支払う必要があります。
②賞与
賞与を支給したら、税務署へ届出
役員への支払いは①の通り、「定期的」で「毎回同額」である必要があります。
そのため期の途中でポンと賞与を支給すると、毎回同額の支給という要件を満たさなくなってしまいます。
なお、物理的に(法律的に)賞与を支給できないのではなく、支給しても会社の経費にならないばかりか、受け取った個人はきちんと税金が取られるので、二重で税金を払うことになってしまうのです。
ただし、会計期間の開始日から4か月以内に税務署へ届出書類を提出すれば、賞与を支給しても会社は経費に計上し、その分の税金負担を軽くすることができます。
税務署に提出する書類
「事前確定届出給与に関する届出書」⇒書式のダウンロード
提出期限
以下のどちらか早い日
・会計期間が始まった日から4か月を経過する日
・株主総会決議から1か月を経過する日
株主総会決議も忘れずに。
役員報酬の決定と同様、賞与の支給も株主総会で決議します。
記録として株主総会議事録を作成しましょう。
役員賞与にかかる税金・社会保険料
役員報酬と同様、所得税と住民税、そして社会保険料がかかります。
所得税
役員報酬と同じで、『超過累進税率』の『総合課税』によって税金がかかります。
所得税率は5%~45%。
住民税
役員報酬と同じく一律10%。
社会保険料
標準賞与額(賞与額面の千円未満切り捨て)に、都道府県ごとに設定された保険料率をかけ、保険料額を求めます。
保険料率は①の役員報酬と同じです。健康保険料と厚生年金保険料あわせて約30%を会社と折半。
なお健康保険料と介護保険料は年間573万円、
厚生年金保険は1回150万円が上限額として設定されており、
この金額を超える部分には保険料はかかりません。
年金事務所への届出もお忘れなく!
賞与を支給したら、年金事務所へ「この人に、〇〇円の賞与を支給しました」という通知を提出する必要があります。
年金事務所はそれを見て、後日、賞与にかかる健康保険料・厚生年金保険料の請求書を送ってきます。
提出書類(クリックして書式をダウンロード)
・被保険者賞与支払届/厚生年金保険 70歳以上被用者賞与支払届
・健康保険 標準賞与額累計申出書(年間賞与支給額が573万円を超えた場合)
③配当(非上場株式からの配当)
配当にかかる税金・社会保険料
所得税&住民税:あり 社会保険料:なし
所得税
役員報酬と同じで、『超過累進税率』の『総合課税』によって税金がかかります。
ただし配当金の所得税でトリッキーなのが、配当金を受け取るときに『20.42%』で源泉徴収(天引き)することです。
そして翌年3月までの確定申告の時に他の所得(役員報酬とか)と合算して、税金を計算し直す必要があります。
税率も合算後の所得全体で決まる(超過累進税率)ので、20.42%より高くなることが多いです。
住民税
役員報酬と同じく一律10%。
所得税とは違って源泉徴収されていないので、翌年6月以降に税額がフルに反映されます。
配当した会社の手続き
▶源泉税を納付する
社長に配当金を払う時は、20.42%を差し引いて支給することをご紹介しました。
この金額は別に、会社が取っておいていいわけではありません。
納付書を作成し、配当した月の翌月10日までに、金融機関または所轄税務署で納税しなければなりません。
▶支払調書合計表と支払調書の作成
『支払調書合計表』と『支払調書』を作成し、支払確定日または支払った日から1か月以内に所轄税務署に提出しなければいけません。
税務署に配当金の受取人を知らせ、その人に対する税金が漏れていないかの確認に使われます。
配当は会社の経費にならない!
ここはイレギュラーかもしれません。
役員報酬や賞与を支給した場合は、基本的に会社の経費となり税金負担が減ります。
しかし、配当金は当期の利益から税金を引いた後の金額から拠出するため、経費にする余地がないのです。
一方、上述したように受け取る個人は税金を取られるわけですから、ダブル課税と言えなくもありません。
④退職金
社長一人の会社でも、退職金を支給することができます。
退職金は税制上、とても優遇されています。
しかも社会保険料はかかりません。
優遇されているからこそ、形式的なエビデンスはしっかり整えておくべきです。
手続きをミスってしまって退職金と認められず、賞与とみなされてしまった場合は多額の税負担が生じてしまいますので。。
退職金規定を用意する
ある特定の人にだけ多額の退職金を払ったりなどの不公平がないよう、退職金の算出方法などを定めた退職金規定を作成します。
これは退職金支給のタイミングではなく、会社を設立したら準備しておきましょう。
株主総会決議の議事録を作成する
役員退職金は、株主総会の決議を受けなければ支給することが出来ません。
支給額・支給日・支給方法などを決め、議事録を残しておきましょう。
退職金の支給額は高すぎるとNG!
いくら儲かっていてお金が余っている会社でも、「不相当に高額」=高すぎると、会社の経費として認められなくなってしまいます。
何をもって「高すぎる」と判断するかというと、
・会社への貢献度
・勤続年数
・地位(役職)
・類似同業他社の支給水準
などを総合的に考慮して、高すぎないか判断するのです。
無難なことを言えば、世間の会社と同じ水準に合わせておけばほぼ大丈夫です。
「高すぎる」と税務署から言われたら、会社の経費から除外されて追加の税金を払う羽目になります。。
他社の状況なんて分からない…!
世の会社それぞれの退職金額が公表されているわけでもないですし、
社長でも他社の情報を豊富に知っているわけではないですよね。
そこで絶対ではないですが、実務においては、功績倍率法によって計算することが一般的に行われています。
妥当な退職金額を算出する目安となる式です。
役員退職金の適正額=最終報酬月額×役員在任年数×功績倍率(※)
※功績倍率:会社に対する貢献度等を反映した倍率で、各役職により2倍から3倍が一般的な水準
引退したときの月額役員報酬30万円、在任年数が30年の社長の退職金の適正額の目安は、この式に当てはめれば以下の通りとなります。
30万円×30年×3=2700万円
この金額なら絶対に大丈夫というわけではなく、世間一般の常識から考えて明らかに高すぎるのであれば、支給額を見直しましょう。
退職金にかかる税金・社会保険料
所得税&住民税:超安い 社会保険料:なし
所得税
他の所得と合算して税金を計算(総合課税)する役員報酬や賞与、配当金とは異なり、退職金は他の所得とは切り離して単独で税金を計算します(分離課税といいます)。
退職金も高ければ高いほど税率が高くはなるんですが、いろいろな優遇を用意してくれています。
退職金そのものに税金がかかるわけではなく、『退職所得金額』に対して税金がかかります。
退職所得金額=(退職金額△退職所得控除)÷2
「退職所得控除」というものを除外し、そのうえ、さらにその半分にしか税金がかかりません。
これが退職金が税金面でとても優遇されているという所以なのですが、具体的にみていきましょう。
「退職所得控除」:勤続年数×40万円(20年超の部分は1年あたり70万円)
勤続年数が30年の場合は1500万円(20年×40万円+10年×70万円)をまず退職金の額面から引きます。
(退職金が1500万円より低ければ、税金は全くかからないことになります。)
その後さらにそれを÷2します。上の人の例でいきましょう。
(退職金 2700万円△退職所得控除 1500万円)÷2=600万円
2700万円もらっていても、600万円にしか税金がかからないのです。
この600万に、所得税率をかけて税額を求めます。
住民税
所得税のところで求めた「退職所得金額」に10%をかけて住民税額を計算。
⑤役員貸付金
最後に役員に対する貸付金です。
これは会社と社長とできちんと契約書を取り交わしている場合と、経理の処理的に仕方なく役員に対する貸付金とする場合もあります。例えば、社長が勝手に会社のお金を使っていた、なんてケースです。
ただ、後者はとらえようによっては「役員に対する臨時的な支給」であり、役員賞与であると判断される余地があります。
役員賞与と認定され、追加の税負担も
会社からの貸付金が賞与であると認定された社長は、その分を収入として計上して税金を払い直さなくてはなりません。所得税と住民税がアップです。
さらに、役員賞与を支給する場合は、会社は所得税を源泉徴収(天引き)し、基本的に翌月10日までに税務署に納付しなければなりません。
これが漏れてしまっていることになるので、それに対する罰金的な意味合いの税金もかかります。
納付すべき税金の10%(税務署から指摘される前に自主的に納付する場合は5%)の『不納付加算税』と、
税金の利息的な意味合いの『延滞税』がかかります。
銀行も嫌がる役員貸付金
何かと税金リスクのある役員貸付金ですが、実は銀行からお金を借りるのも難しくなってしまうんです。
銀行があなたの会社にお金を貸すとき、必ず決算書を見せるよう求められます。
内訳項目を細かく見られるのですが、そこに役員貸付金があると、
「あっ、これは社長が会社の金を私的に使っているな…」と判断します。
そうなると、どうでしょう。
「今回銀行がお金を貸したとしても、それも社長の個人的なお小遣いに消えちゃうのかな。。お金貸しても返ってこないかも」
と考えそうです。
それで融資が下りずに運転資金が回らなくなるなんてことは避けたいですよね。
貸付金として会社から社長にお金を払う時は、税金や社会保険料を調べて控除したりしないので、パッと見ラクです。
しかし、このように役員貸付金には税金リスク・融資リスクが潜んでいるので、きちんとした形(役員報酬・賞与・配当金・退職金など)で支給するようにしましょう。
まとめ
今回は、会社から社長にお金を移す5つの代表的な方法について、注意しなければならない点とそれぞれの税金について解説しました。
どの方法を採用するかによって、税金や社会保険料の負担、用意すべき事項が異なります。
それぞれ特有のリスクもあるので、しっかり準備して適正に会社のお金を個人に移しましょう!
こんな悩みごとはありませんか?
- 担当者が毎年のように変わる
- 税理士が高圧的で意見交換できない
- 税理士から節税策など何の提案もない
- 試算表をタイムリーに出してくれない
- 試算表の説明を受けたことがない
- クラウド会計に対応していない
- ほとんど税理士が来てくれない
- 質問しても回答がない、嫌な顔をされる
- 現在の税理士が高齢でこの先が不安
税理士とのコミュニケーション不足は、記帳内容がぐちゃぐちゃになり、誤った経理処理となる要因となります。
その結果、3~5年周期の税務調査において指摘の対象となり、最大40%の追徴課税(追加で税金が取られてしまうこと)のリスクが高まります。
無駄な税金を払わないためには、常日頃、経理処理や経営環境などについて税理士と共有し、追徴課税リスクへの対応策を早期に講じることが大切です。
岩沢将志税理士事務所では、『日本一気軽に相談できる税理士』を理念に掲げた代表税理士が、経理内容のご相談はもちろん、税務調査対策(税務調査にて指摘が予想される事項を早期にお伝え)、お客様に最適な節税策のご提案等をさせていただいております。
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強引な勧誘は一切しておりませんので、お気軽にお問合せいただければと思います。
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